初めての『生徒』になってくれた40人

2018年度
岡山県立津山東高等学校
3年1組食物調理科の皆さんへ


卒業式典と最後の授業を終えてまたいつもの時間に戻ってきました。

式典の最中、どんな気持ちで過ごしましたか?
誰のことを考えていましたか?
どんな出来事を思い返していましたか?
そうそう、式典の最後、ブラスバンドの演奏で校歌が流れた時は鳥肌が立ちました。
かつての東高生ですが在校時を含め校歌をこんなに愛おしく思った経験はなく、とても不思議な感覚でした。
それは単に卒業式典に参加させてもらったということではなく、そこに皆さんという存在があったからだと思います。

 

 

教室で手渡された冊子を手に取っています。
花束もですがこんな素敵なプレゼントがあるとは想像しておらず、もはや涙なしでは見れませんでした。
そして一番最後に『接客・サービスを学んで』を読みました。
授業を通してそれぞれが受け取ってくれたものが多様で、とても興味深く自分の中に落とし込んでいます。
皆さんの年齢くらい新人教育に携わっていますが、それは接客をしたいとやって来る学生や社会人向けであって、今回のように接客に必要性を感じていない(人もいたであろう)集団に対しての授業は初めてでした。
でも料理と接客は切り離せないことを体験してきていることで一切の不安もなく、ひたすら『サーヴィス』というものの楽しさ、素晴らしさ、ただ軽く見れない存在であることを伝えることだけ心がけました。
どうでしたか、きちんと伝わったでしょうか?


つい先日ホテルグランヴィア京都にて、2012年「クープ・ジョルジュ・バティスト」(サーヴィス世界コンクール)獲得の宮崎辰さんの講演会&ディナーに参加してきました。
本当に簡単に言うと「世界最高の給仕は誰だ?」という世界大会で日本人で唯一優勝したサービスマン(メートル・ドテル)から話を聞けて実際に接客を受ける体験ができる一日です。
コンクールで優勝となると技術や知識が重要と思われるかもしれませんが、サービスマンとしてそれはもちろん習得した前提で、何より一番求められるのは実は心なのです。
自分の成長のために技術や知識を勉強していくエネルギーを発揮する人は多いのですがそれは内へ向けた自己満足に過ぎず、外を向いて相手のことを見ようとしない限り他者満足を得られることはないのです。
一方通行にならず常に相手のことを慮り、ライフスタイルにまで想いを馳せてオートクチュールのサーヴィスを提供すること。
そう宮崎辰さんはおっしゃっていました。

もう一つ心に残ったことを紹介します。
常々自分も意識していたことを本当に上手に例を挙げて言語化してくださいました。
それは『時空を超えて完結するサーヴィス』というものです。
この言葉を聞いただけで想像できますか?
来店されてお相手してお客様がお帰りになっても実はサーヴィスは続いているのです。
気に入ってくださり再度ご来店されたその時初めて、前回のサーヴィスに満足があり足を運んでいただけたと判断ができて完結する。
場合によってはお父さんお母さんが旅先で過ごした時間が忘れられないほど最高だったと、その話を聞いていて思い出した子供さんが訪れた時、つまり何十年後かにやっと完結することだってある。
どんな事情があるにせよ、再度お越しいただけなければその時のサーヴィスはその基準まで到達していなかったというシビアでもあり当たり前の結果。
これは接客だけでなく料理や施設、つまり時間と空間が含まれています。
決して接客さえよければ、料理さえよければ、建物や設備さえよければという話ではないのです。
みなさんが将来就く仕事にも無関係ではありません。
時空を超えたサーヴィス、常に意識していたいですね。



反対に心さえあれば良いのかと言うと当然そうでもありません。
精一杯おもてなししたいという気持ちがあっても技術や知識がなければ喜ばせられないお客様は存在しています。
考えてもみてください、患者を救いたい気持ちがあるけれど治療技術も医療知識も持ち合わせていない医者の怖さを。
本当に心があるのであれば技術も知識も身に着けるべきであり、それが本当のお客様想いというものです。
皆さんもお客様を本当に心の底から喜ばせたいと考えているのであれば、一刻も早く技術と知識を身に着けてください。
初めて厳しいことを言いますが、時として未熟さは罪にもなってしまいますよ。



楽しい遊びや興味のある出来事に夢中になり、ついつい時間のことも忘れ、疲れたという自覚すらなく、これが永遠に続いても平気だと感じた経験はありませんか?
まるで子供みたいだと思ったかもしれませんが、そもそも子供は『遊び』と『学び』を区別していないと考えられています。
これは自分の持論ですが『仕事』だとか『勉強』だとか『遊び』だとかカテゴリに分けてしまうから変になってしまうだけで、本来何も考えず夢中になれるものであれば人は寝食を忘れて没頭します。
月にわずか80時間オーバーで「過労死」することはあっても、学校終わりでも遅くまで遊びまくっている子供に「過遊死」が存在しないのはなぜでしょうか。(あくまで持論ですよ)
実際自分は1ヶ月で最大勤務時間450時間以上を経験していますし、リアルに年中無休で働いた期間が何年もありますが、面白すぎたのか病気をすることもなく疲れたとかバテたと感じた記憶がない(睡魔に襲われたことはあります)です。
ちまたで騒がれているブラック勤務を助長するつもりはなく、皆さんが夢中になって取り組める何かが見つかるといいなと思っているということを付け加えておきます。
そして休みを挟んだほうが確実にパフォーマンスが上がることも断言しておきます。


みなさんは今から望むのであれば例えば総理大臣にだってなれる可能性があります。
勝手に可能性を縮める必要はないのです。
社会人になる人、学生を続ける人、全員に言えるのは《この先の人生もずっと幸せであり続ける》という確信です。
最後にみなさんも知っている物語から、私の好きな一節を贈って卒業への手向けとします。

 

【飛べるかどうかを疑った瞬間、君は一生飛べなくなる】

J.M.バリー 『ピーターパン』より



みんなの可能性を心から信じています!
卒業おめでとう!



岡山県立津山東高等学校 食物調理科
2018年度 非常勤講師
株式会社トータルセッティング
代表取締役 石原貴史